「錦帯珈琲」はこうして生まれた
    “ご当地コーヒーを作りたい”が出発点


 岩国で創業して間もない頃、どうしても作りたかったのが地元の名前を使ったブレンドコーヒーでした。よく“ご当地コーヒーを作りたい”と言っていたものです。当時も今もそうですが、世間ではグルメやキャラクターなどのご当地モノが流行っていたこともあり、その雰囲気に多分に流されたんだと思います。さて、そうなると頼みは錦帯橋です。全国的な知名度も高く、岩国観光の目玉でもあります。これに乗らない手はありません。ですから、構想段階ですでに商品名に「錦帯橋」を入れること、錦帯橋の5連のアーチにちなんで5種類の豆を使うことはちゃっかり決めていました。コーヒー豆が地元農産物でない以上、錦帯橋とコーヒーを結びつける、接着剤というか物語りが必要だと考えていました。さらに、コーヒーでは“この種の商品”、つまり錦帯橋にあやかったコーヒーの土産物がなかったことも製作意欲を大いにかりたてました。そして味については、バランスを重視した、どなたが飲んでもまずまず及第点がもらえる平均点の高いコーヒーにしたいと思っていました。こうして当時を振り返るとその熱っぽさに少々照れますが、それにしても身の丈を超えた風呂敷を広げたものです。それもこれも若さと野心のせいでしょうか?(←当時はまだ30代。今はもうどちらもありません。)

 商品コンセプトと目指す味は決まりました。後は肝心の商品づくりです。それまで作ってきたブレンドコーヒーとは少し意味合いが違うだけに、自然と気合いが入りました。以来、試作品をこしらえては考察する日々が続きました。作っては飲んで考える、の繰り返し。地味で根気のいる作業です。しかも一人。当然、行き詰まりました。使用する豆を変え、配合比率を変え、焙煎度合いを変え、あれやこれや試しましたが、ストンと腑に落ちる味にはなかなか出会えませんでした。正解らしき味をうろついている自覚はありましたが、小さな味の違いが気になり判断が揺れました。でも、どれかに決めなければなりません。期限は設けてませんが、悠長に構えてもいられません。この企画だけは頓挫させたくないという執着もありました。それでさんざっぱら迷った挙げ句、結局私が選んだのはもっとも思い入れの強い試作品、つまり一番好きな味のコーヒーでした。人が選択を迫られた際、「後悔しない方を選ぶ」という便利な方法があります。気持ちに偏るあまり判断を誤ることもありますが、なんとなく収まりもいい。もちろんこの方法を採ることに抵抗はありましたが、そうでもしないと一つに決めることなどできませんでした。理を尽くして答えを探したけど見つからず、最後は情か。そう思うとおかしくもありましたが、自分の力量不足にじくじたる思いを抱きながらもなんとか「錦帯珈琲」第1号の味を決めることができました。

 それでは最後にキャッチフレーズについてお話しします。「5連のアーチ 5種類の豆」はまず問題ないとして、なぜ「5つの味」なのか? 気になりますよね。きっかけはひたすら繰り返した試飲にあります。来る日も来る日も似たような味のコーヒーを飲み続けているうち、どの試作品にも同じような感想を持つようになりました。たくさんの味がする。しかし、この感想に不思議はありません。使用する豆の数から考えても複雑で重層的な味になるのは当然なことでした。だったらこのことを伝えよう。それで「たくさんの味=5つの味」にしたわけです。「5」でつないでトリプルファイブ。キャッチーでインパクトも出るわい、というスケベ根性も働きました。もっともこのいきさつを知ってしまうと、「5つの味」の根拠が怪しくなってしまいそうですが、そこは大丈夫です。探せばちゃんとありますから(汗)。

 長くなりましたが、「錦帯珈琲」が生まれたいきさつは以上です。創業翌年の2002年には商品化することができ、幸いにも“この種の商品”としては一番乗りを果たすこともできました。もちろん、早さを競ったわけではありません。ですが、それでも先駆けになれたという事実は、苦心して作った者にとっては一つの矜持として今でも胸の奥にあります。あれから20年が経ちます(この文章は2022年夏作成)。オギャーと産まれた赤ちゃんが二十歳の大人になる。そう思うと長いですね。おかげさまで「錦帯珈琲」は当店の看板商品となりました。本当にありがたいことです。その後、配合豆と配合比率は何度か変わっていきました。味が変わることに不安はありましたが、今となってはその時の判断を信じるよりほかありません。ところで当時を振り返ってつくづく思うのは、何もかもが旺盛だったあの時期に、情熱を傾け、スピード感を持って商品づくりに臨めたことの運の良さです。その先にゴールがあると信じ、ハンドルを固定し、アクセルだけを踏み込み、一気に駆け抜けた数カ月。だからこそ思いを形にすることができたのだと確信しています。タイミングがずれてもダメ、途中立ち止まってもダメ、であったと思います。「錦帯珈琲」は物語りをまとったコーヒーです。その存在理由である5種類の豆を使うことは今後も実直に守っていきます。この物語りがいつまでも語り継がれていきますように。そう願いを込め、これからも皆さまの好みに添えられるよう日々研さんを重ねてまいります。最後までお読みいただき感謝申し上げます。

About the owner

広中文雄

いらっしゃいませ。代表の広中文雄です。コーヒーを1日3杯、年間1,000杯飲む、ごく普通のコーヒー好きの中年男です。早いものでこの仕事を始めて20年以上になります。それまではサラリーマンをしていました。サラリーマン時代は職を転々とし根無し草のような状態でした。そして30歳を前にリストラ。この仕事に魅せられたのは本当ですが、自分の働く場所がほしくて起業したのも事実です。実店舗は山口県岩国市、JR岩国駅前にあります。ここで焙煎をして全国のみなさんに商品を発送しています。もちろんコーヒー豆も販売しています。どうぞお気軽にお立ち寄りください。

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